同性パートナーへの犯罪被害者等給付金における遺族給付金の支給を認めない判決について
毎週月曜のコーナーも13回目。
今回の「あっちゃんの月曜社会科0.5校時」では名古屋地裁の角谷昌毅裁判長が出した「同性パートナーへの犯罪被害者等給付金における遺族給付金の支給を認めない判決」について取り上げました。
ゲストは琉球大学法科大学院 矢野 恵美 教授。
リモートでつないで解説して頂きました!
以下、聞き逃した方にもぜひ!
書き起こしを残しておきます。
犯罪被害者給付金制度って?
あっちゃん:(2020年)6月4日に名古屋地裁が同性のパートナーを殺害された遺族の方が犯罪被害者給付金の支給を認められないという判決を下したという事例がありまして、この件について掘り下げていきたいと思います。お呼びしているゲストは、琉球大学法科大学院教授矢野恵美先生です。電話でお繋ぎしています。
矢野先生、おはようございます。
仲村美涼アナ(以下、美涼):RBCアナウンサーの仲村美涼です。宜しくおねがいします。
首里のすけ(以下、首里):お笑い芸人の首里のすけです。宜しくおねがいします。
矢野恵美教授(以下、矢野):宜しくおねがいします。
美涼:それでは、まず矢野先生がどういったご研究をされているのかから教えていただけますか?
矢野:ありがとうございます。専門は犯罪に関することで、犯罪者の処遇ですとか、被害者の権利について、ジェンダーの視点も取り入れながら研究しています。
美涼:今回の6月4日の地裁判決で、同性の遺族への給付金が認められなかったということなんですが、これは一体どういうことなんでしょうか。被害者給付金とは何かまず教えていただけますか?
矢野:わかりました。犯罪の被害にあわれたとき、被害者の方は、病院に行かれたらそこでかかったお金ですとか、お仕事をお休みされたときにはその保障ですとか、あといわゆる慰謝料なんかも加害者に請求することができるんですね。もし、被害者の方が亡くなられたときには、その方が生きていらしたら、働いて得ることができた収入などを、これを逸失利益と言うんですけれども、遺族の方が加害者に請求します。そのためには、民事訴訟、損害賠償請求と言った言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、こういった裁判を起こすのですが、そのためには弁護士さんに頼んだりします。また裁判を起こすには訴訟費用というのがあり、裁判を起こすのにもお金がかかります。確かに裁判を起こせば、ちゃんとした金額が判決で出るんですけれども、犯罪の加害者の側も、そんなにお金を持っている方なんていないんですよね。なので、実は多くの被害者の方が、裁判を起こすことすら諦めて、被害にあったお金ぜんぶ自分が払っているということがあったわけです
美涼&首里:そうなんですか!へぇ。
矢野:これは今でもそうなんです。ただ、これは日本だけではないので、そういうことに対して国がなんとかしようよ、っていうふうにして始まったのが、この犯罪被害者給付金制度です。
一番最初に1963年にニュージーランドでできて、1970年代に色んな国でできて、日本はちょっと遅れて1980年に犯罪被害者給付金法というのができました。
でも、最初は「お見舞金」として、加害者にお金を払ってもらえない被害者に対して、国がお見舞いを出しましょうというような感じだったので、とっても安かったんです。でも、例えば、オウム真理教による地下鉄サリン事件とかが起こりましたよね。この事件でもたくさんの人が大きな被害を受けたんですけれど、オウム真理教からはお金が全然もらえませんでした。みなさんが、段々そういうことを知るようになってきて、少しずつ金額が上がってきました。ただ、それでもまだ十分じゃない、というのが現状です。
裁判までの経緯
美涼:なるほど。この犯罪被害者給付金についてもまだまだ課題があると思うんですが、それに合わせて今回は同性パートナーという論点もありましたね?
矢野:この犯罪被害者給付金では、被害者の方が亡くなった時に支給してもらえる遺族の第一順位、要するに一番最初に請求できる人は「配偶者」って書かれています。そして、その配偶者の中には「事実上婚姻関係と同様の事情にあったものも含まれる」と書いてあります。つまり、事実婚関係とか内縁関係と呼ばれる方も入りますよーとはっきり書いてあるんですね。それで、今回、裁判を起こされた方は、20年以上、パートナーと連れ添われて、パートナーのお母様が介護が必要になったときには、お仕事をやめて最後まで看取ったと言う方です。そのパートナーの方が殺されてしまったんです。そこで、遺族として、犯罪被害者給付金の支給を求めました。
この支給は、警察に申請をするんです。そして、公安委員会が判断します。そこが、同性パートナーだから支給しない、という判断をしたので、名古屋地裁に「支給しないという判断を取り消してほしい」といって起こしたのがこの裁判です。
棄却とその論点
美涼:でもこれは棄却になってしまったんですよね?
矢野:はい、その理由というのが、同性カップルは、いかに長年一緒に暮らしていても、男女の婚姻関係と同じように判断するという社会通念は形成されていない、ということだったんです。
首里:社会通念が形成されていないという言葉自体がよく分かんないんですけど、ざっくりいうと「普通ではない」ということ(が言いたいん)ですか?
矢野:社会のみんなが認めていない、常識にはなっていないということですね…
首里:でも、普通に考えたら、20年以上連れ添っているわけだから事実婚として認めるべきじゃないかって思いますけどね。。。聞いた感じでは。
しかも、これが数年前の話ではなく、今月の話ですもんね?
矢野:そうなんです。この判決の問題点というのは、3つあって、このカップルが内縁関係とか事実婚に当たらないとか判断したのではなくて、そもそも同性カップルというのはどんなに長年一緒に暮らしていても男女の婚姻関係と同じには認めない、つまり同性カップルを全否定をしてしまったことが、とても大きな問題です。
この犯罪被害者給付金というのは国が払うもので、その原資は税金なんですけれども、今回の判例は、税金から払う以上は社会通念が認めていない人には払えない、と言っています。これは、性的多数者にしか税金は使わないかのように聞こえ、これが2番目の問題です。当たり前ですけど、性的少数者の方々も税金は払ってはいるんですよね。
このように多数決理論を使っているのも問題と言われていて、三番目の問題点です。三権分立において立法と行政は、どちらかというと多数決の理論で行われる事が多いけれども、裁判所だけは、つまり司法だけは「少数者の権利も守る」役割があります。だから、少数者の権利の最後の砦と言われていて、少数者であっても権利があるのだから、多数決で決めちゃいけないんですよ。税金は多数の人にしか使わないし、税金は多数の人が認めていないから払わないよ、というような言い方なのも問題があるんじゃないかなと思っています。
美涼:こうした同性カップルに関する事例って他にもこれまであったんですか?
矢野:犯罪被害者給付金が正式に争われたのは初めてではないかと思います。
美涼:そうですか初めてでこういう判決が出るのってショックですね。
首里:この当事者の気持ちになってみると、犯罪被害者給付金の話もあって、そもそもこの命を亡くされたって話もある上に、同性パートナーシップの問題も多いかぶさってきてるんだ、っていうトリプルパンチの気がしていて、とても悲しいですよね。
他事例への影響について
美涼:今回のこの結果が今後何か影響が出てくる面もありますか?
矢野:そうですね。同性カップルの婚姻は、現在の日本では法律で禁止されてるわけではないんですけれども、「認められていない」という現状があります。でも色々な場面で、「ご遺族かどうか」という問題はでてきます。例えば労災であったり、遺族年金だったり、そういったものもみんな同じような規定ぶりになっているので、今回、この裁判で、同性カップルは遺族たりえないとされてしまうと、色々なことが連鎖して否定されてしまうのではないかととても心配しているところです。
美涼:今回はこの遺族給付金だったけども他にも影響が出てくるかもしれないんですね。
矢野:そうですね。いわゆる DV 防止法なんかも同性カップルを内縁関係として、保護命令を出した例もあるんですけれども、まだはっきり定まっていない部分があるので、ここにも影響を及ぼすんじゃないかと心配しています。
わたしたちには何ができるのか
美涼:こうした悲しい出来事に、私たちに何ができるのかわからないんですけれども、どこにどういった声を届けたら、これが例えば改善されていくんでしょうか?
矢野:はいあのーおっしゃってくださった通りで、もともと犯罪被害者給付金というものが持っていた理念、つまり、家族を失った悲しみや、経済的な損失には、性別やセクシャリティは関係ないですよね。今回、そこに、同性カップルがそもそも日本では婚姻できないという問題が重なり合ってしまっています。少なくとも遺族に関して、同性であるか異性であるかは関係ないと皆さんが思ってくださるなら、その声を上げてくださることによって、「あれ?社会通念できてるんじゃないの?」と裁判所に思ってもらえるといいなと思っています。みなさんもぜひこの問題を知って、給付金支給してもいいんじゃない?と声を上げて頂けたらと思います。
美涼:あっちゃんさん、この時代にまだこんなことがあるんだな、っていうのが衝撃なんですけど。
あっちゃん:本人同士が結婚をしていない、ということよりも「結婚することができない」ということは社会の中に不備があることなので、本人たちに問題があるかのようにこういった理不尽な状況に陥ってしまうことは、当事者以外の人でも「それはおかしいんじゃないか」って声をあげていくことって重要ですよね。
美涼:これまで抑圧されてきた声が、この裁判を起こそうとなったこの動き自体はいいことなのかなと思ったんですけど
あっちゃん:今回も当事者が声をあげて、ここまで出てきたっていうところがあって、そしてそれをサポートする人々がいたから発信があって、今回も地裁レベルの話なのでこれから控訴していてっていう風にありますけども、これが矢野先生が新聞に書いてくださった、その記事を私が見て「是非教えて欲しい」とお願いした、そしたらこうやってラジオで取り上げていただけた、なんかそういう連鎖によって、人がこういう問題なんだって認識していくことって本当に意味があることだなぁと思います
美涼:私達も今回、矢野先生そしてあっちゃんさんに教えていただくまでこの事をまず知らなかった自分がいるなと気づきましたよね。この那覇市にも同性パートナーシップ制度があって今どんどんどんどん声が大きくなってきている方々がいる。その方の声に私たちが耳を傾けていく、こういうことを考えられていて、こういうことがあったんだなーって想像していくことが本当に大事なんだなと聞いてて思いました。
首里:パートナーシップ制度っていうのができてると聞いてたからもう認められているのかなと勝手に思ってたんですけど、そうではないんですね。
美涼:矢野先生、本当に心の傷を少なく、どうにか良い方向に向かって欲しいですね
矢野:そうですね。同性でも婚姻ができるように制度を変えるのには時間がかかるかもしれませんが、少なくとも、今回の犯罪被害者給付金に関係して、今、苦しんでいる方がいて、「パートナーを失って大きく傷ついておられることに性別は関係ない!」ということは皆さんにお伝えしたいです。