沖縄×貧困を語る言説が孕む問題を考えるために(その1)

以前、こんなメモを残しておきました。
▶「2021はじめて沖縄で子どもの貧困問題に関心を持った人が読んでほしい本10冊と次の5冊(2021.10.06)」( https://atz.daimon-okinawa.com/blog/401/ )

我ながら、割と手に取りやすく、読みやすいし、議論ができそうなものを選んだなと思っている。今日は、これとは別で参考文献メモを追記します。
経緯としては、こんな取材に応えました。そのときに念頭に置いていた「参考文献」です。
樋口耕太郎(2020)『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』光文社新書.という本の記述内容に関するファクトチェックのあとのコメントが私のものです。

沖縄タイムス「貧困本、前提事実に「誤り」 真偽と推測ない交ぜ #ファクトチェック」(2022年3月31日)( https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/934996 )

私が担当させてもらっているある講義では「1866年のロンドン調査は、当時の市民の30%以上も居ると推定された「貧困層」の原因が、個人の資質に依るものではなく、多くは雇用上の問題によるものだったことが明らかにされた」と社会調査や福祉の教科書を用いて紹介することがある。この説明をするとき私は内心、「150年経った現在、県民の30%以上が貧困状態にあるとされる沖縄において、いまだその原因を、個人の内面に見出そうとする言説が根強いのは、なぜだろう」と考えてしまう。

本書もその一つなのか(/そうではないのか)、というのが書評を引き受けたときの問題意識だ。
そこで書評コメントするときに頭に浮かんでいた本を紹介しようと思う。

念頭に置いていた2冊、そして1冊子。

  1. オーウェン・ジョーンズ、(2012=2017)『CHAVSーー弱者を敵視する社会』海と月社.
  2. ジョック・ヤング、青木秀夫・伊藤泰郎・岸政彦・村澤真保呂 訳(1999=2007)『排除型社会ーー後期近代にのける犯罪・雇用・差異』洛北出版.
  3. 沖縄自治構想会議(2018)『沖縄エンパワメントーー沖縄振興と自治の新たな構想』

選んだ理由

1.この「CHAVS」の副題は、邦訳では「弱者を敵視する社会」。もとは「DEMONIZATION OF THE WORKING CLASS」=労働者階級の悪魔化が主題。

『CHAVS』は、新自由主義政策が浸透し労働者階級の地位が弱まりまくったイギリスにおいて、弱者を侮蔑的にまなざし、他者を本質化することで階級的な偏見を利用し、政策によって不平等に追いやられていることを覆い隠す状況を描いている。

(余談:ウクライナ情勢で最近話題になっている『紛争でしたら八田まで』のイギリス編においても、明らかにチャブを意識した描写がある。暴力的な騒動を起こそうとするキーパーソンの一人が偽バーバリーキャップを被っている。CHAVSの表紙のそれと同じ。労働者階級二世の生活困難層として描かれている。)

「悪魔化」とは、 2のヤング(2007)で言えば「社会構造の中のある特定の人びとを指し示し、社会病理の責任を押し付ける」それをその集団の本質として扱うこと。(ざっくり言えば、他者を本質化するということは、自分とは違うやつだ!という理解を可能にするから)

記事では止む無く「モンスター化」と表記したが、本来は「悪魔化」としたかった。しかし、あまりに一般的に馴染みがない言葉で、説明を入れなければならないので紙幅の関係上変えた。2のヤングでは「怪物化」と「悪魔化」は異なる。集団を悪魔に仕立てるのに対し、個人に向かうのが「怪物」である。「集団の悪魔化と個人の怪物化は、互いに重なるところもある。しばしば怪物を作り出すことは、集団を悪魔に仕立て上げることの背景と結びついている」(ヤング、p294)。

2、ヤングから引用する。

「他者を悪魔に仕立て上げることが重要なのは、それによって社会問題の責任を、社会の「境界線」上にいるとみられる「他者」になすりつけることができるからである。このとき、よくあることだが、因果関係の逆転が起こる。社会に問題が起こるのは、実際には、社会秩序そのもののなかに根本的な矛盾があるからなのだが、そう考えるのではなく、社会に問題が起こるのは問題そのもののせいだ、と考えるのであるーーつまり、「問題自体を取り除いてしまえば、社会から問題はなくなるじゃないか!」というわけである。」(p.285)

「社会的排除を実行するためには、犯罪の原因を逸脱的他者に押し付けることが必要になってくるのだ。たとえば、ある人種を悪魔に仕立て上げるためには、犯罪の責任をその人種に押し付けることが不可欠なプロセスとなる。」(p.286)

私は記事にも載せた部分で指摘したように、沖縄の人のふるまいを集団の本質として語るような言説は、分断を深めてひとびとが社会的に排除されているという事実を覆い隠す恐れがあると考えている。

たとえば、どんな職場でも同業者のなかでの小さな諍いがある。
でも、待遇のよくない職場で働くほうが諍いは多い。みんなが自分の意見を飲み込んで働いている。
そんな中で、労働者は同じ労働者を叱責することで、自分のアイデンティを保つような言説になりかねないということを危惧している。
例えば、同じ労働者を「あいつは怠けてる」「自尊心がないからだ」とか、すごく狭い場面においてそうやって他者を眼差すことで溜飲を下げたり、中間管理職の人びとは自分がマネジメントする相手を「怠け者でなぁなぁ」だからと捉えればマネジメントの失敗は問わなくてすんだりする。
他方で、「この本のように軽薄なものを好むような奴は何も分かっちゃいないくせに批判されたら罵倒する」という風に支持者を悪魔化することも起こりうる。
そうやって労働者同士が分断していく。
連帯が遠のく。
他者の中に問題を見つけ出すだけで貧困問題を理解したと思い込んでしまうと、変えるべき社会の側面の議論が進まなくなってしまうのではないか。
そんなことを考えたときに、チャヴとヤングの本を思い出した。

前回オススメした金子(2017)では、第3章「社会は貧困をどう見ているか」において、「貧困や社会保障を考えるにあたって、世間一般の人々が貧困についてどう思っているか」、このひとびとの「貧困観」について複数のバリエーションを例に説明している箇所があり分かりやすい。
そしてそのような見方は「貧困の議論も複雑化を避け、単純化されて語られがちである。単純化され、誰にでもわかりやすく、消費されやすいかたちになった貧困の言説が市場にあふれ、メディアを席巻している。それが現代における「ふつう」の貧困観ではないだろうか(p.109 )」「貧困についての言説は、人びとの「本音」とは無関係に、社会を支配する権力となり得る。諸個人が自分自身の「本当の貧困観」をもっているというのではなく、市場がつくりあげた貧困の言説が「ふつう」の貧困感として社会で支配的になるのである(p.109)」と述べている。

(やっぱりこれが入門書としては最適な気がする。この章のまとめに「自身の貧困観がいったいどのような情報や知識にもとづいて形成されてきたのか、ふりかえって再確認してみてほしい(p.109)」とあって、今日も赤べこを発動した)

そんなわけだから、私は沖縄で暮らすときに感じる「あるある」を安易に「貧困」と結びつけて語ることを容認する態度は取れないのだと思う。しかし、そういう情報や知識に触れずに、消費される形態での「貧困」言説に触れ続けていれば、態度が変わってしまっていたかもしれない。

3は、おまけ(内容が軽いということではなくこのメモにとって主題から少し外れているという意)。無料の冊子。PDFになっている。これは沖縄関連の政治学研究者が無料で出してる冊子。沖縄に耳の痛いことを言ってくれたのが、この本書の価値だと考えている人もいるかもしれないが、これまでそれを指摘した研究がなかっただなんて、そんなことはない。私は沖縄の政治学、歴史学の領域については専門外。それだとしても補助金行政と沖縄政策をトピックにしている研究の存在は認知してる。
しっかし高いし前提条件がなく読みすすめるのが難しい気がした。
これは無料だし、一般向けになっているので、最初の一冊としてどうだろう。
そこから芋づるしてほしい。

前述の選書メモでも書いていますが、一般の方が「関心はあるけど何から手に取ったらいいだろう」と、そのヒントがないとき手助けになったらいいなと思って書いてます。(学生は指導教員に聞いて、先輩に聞いて、図書館へGO!論文・文献芋づるGOGOできるという想定なので)
だから、できるだけ読みやすく(文章が読みやすく&ハイコンテクストではないような)、ある程度手に入れやすいものを紹介するようにしている。

ただ、今回ファクトチェックされた『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』のように990円で書店で買える「貧困」「沖縄」を冠した本は確かにない。そういう意味では、意識的に貧困問題と言われるような状況をどのように捉えたらいいのかということにアンテナを張ってないと体系的に考える資料に出会うの難しいんだなあ。という動機から、今日も参考文献メモを書いている。

どういう部分を読んで書評的コメントに至ったのかとか、今回の記事の取材を受けて考えたことは分けて書くことにする。その2へ続く(続いてるかどうかは分からない)。


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